海行かば (三)①
(三)
「昭さん、お前ほんまに一等兵曹か。将校でもないのによう知っとるな。俺も伍長やさかい、あんまり違わんのに感心するわ。ほんで続きはどうなるんじゃ。」
進行役の武雄叔父が身を乗り出して言う。無類の話好きである。
「叔父さん、叔父さんの話聞かせて下さいよ。声かれてきましたわ。」
私は、親類の女性が「お兄さん、お疲れが出ませんように。本当に声かれてきておられますよ。」と言いながら運んで来てくれたお茶をすすった。
「叔父さんは、前の戦争の時に多くの敵兵を倒した歴戦の兵士だったと聞きます。」
「その話はまた後でしたろ。」
「する度に人数違ったら信用なくなるからね。」
そう親類の女性がからかうと、
「何を言うんや。暗闇の戦闘もあるんやで。一人や二人違っても何が悪いんや。お前も黙って昭さんの話聞いとれよ。」
と言ったが、私の話を聞いて、少し自分の話もしたくなったのか、
「俺も少し話するわ。昭さんはちょっと休んどいてくれ。」
そう言って武雄叔父は、半分むきになりながら話し始めた。
「俺も敵さんを随分殺したわ。しかし、敵さんを殺したことを恥じてはおらん。手柄という気はないけれど、かわいそうだと思ったこともないな。密林の暗闇の撃ち合いや。俺は小銃、相手は自動小銃や。それでも俺は相手を倒したんや。食うか食われるか。運が悪かった方が弾に当たるっちゅうだけの話やな。
俺の戦友、何人も死んでいる。仇を討っただけや。もちろん個人としての恨みはない。だから、戦争が済んだら、皆仲良くいけるんや。それが戦争や。」
「それでも狙ったんやろ。」
大きな声を聞いて様子を見に来た武雄叔父の娘の鈴代が口を挟むと、
「鈴代まで何を言うんや。あそこで俺が弾に当たってたら、お前はこの世にはおらんのやぞ。」と興奮気味に言い、続けて、
「狙わんと小銃みたいなもん当たるかいな。しかし俺は自慢できること一つあるんや。それはな、逃げる敵は一回も狙ったことないちゅうことや。しかし、暗闇や。狙った言うてもよう見えん。それでも撃った弾が皆当たるんや。こればかりはどうしようもないわ。」
「それでは僕の話を続けます。」
私は、親子喧嘩が本当の喧嘩にならないように、気を遣った。